天空の蜂 東野圭吾
自衛隊に納品予定だった最新鋭のヘリが何者かの手によって、盗難に遭う。
遠隔操作されたヘリは愛知から北陸に向かい、ある原子力発電所の直上でホバリングする。
犯人からの犯行声明は日本中の原発を止めること、さもなくば、ヘリを墜落させる。
しかし、犯人も予期しなかったことが一つ。奪われたヘリには一人の子どもが乗り込んでいた、、、
残されたわずかな時間で、ヘリの開発者、原発の関係者、自衛隊、地元の警察、愛知の警察、それぞれの場所でそれぞれが残された手がかりから犯人に迫る。ヘリの墜落を阻止できるのか、子どもを救出できるのか。
何に驚くかというと、この作品が約20年も前に書かれた作品であるということ。
3.11以降に巻き起こった原発をめぐる議論に着想を得たわけではないということである。
作品の中で繰り広げられる原発を巡る賛否の議論は3.11以降の現実の世界と大きく異なることがなく、タイムリーな作品にすら感じる。
逆に言えば、20年前からこの議論は未決着のままずっと持ち越されてきたということを感じる作品。
序盤に犯人の一人が明かされ、その人物は犯行を止めようとする側に紛れ込むことになる。読者しか分からないその人物と、捜査側の人物のやり取りは、スリリング。
ただ序盤に犯人が一人が明かされることもあって、サスペンスとしての意外な展開があるというよりは、詰将棋のように、一手一手犯人に近づく捜査の手が、徐々に犯人像を浮かび上がらせる中で、ヘリの墜落までに犯人にたどりつけるかというスピード感、ハラハラ感を感じる作品だった。