昨夜のカレー、明日のパン 木皿泉

まず、単純な感想としてすごく良かった。大好きな本。


若くして亡くなった一樹。一樹が亡くなって以降も妻と義父が続ける同居生活。

二人は一見穏やかな日々を過ごしているように見えるが、その内面では一樹が亡くなったことから前に進めず、でもこの心地よい穏やかな二人の暮らしが永遠に続かないことも分かっていて、少しずつ少しずつ色んなことが変わっていくことに戸惑いを覚えながらなんとか生きていく。


二人をとりまく人物を主人公にして短編を重ねていくことで、二人の暮らしを浮かび上がらせていく。

過去のエピソードも交えることで、現在の関係性だけではなく、時間軸が加わり、より立体的に登場人物の内面を感じさせる描き方をされている。


二人以外の登場人物も往々にして何らかの「喪失」を抱えていて、でもそれでいて、情緒的感情的にならずに、喪失と向き合いながら立ち止まったり悩んだり しながらそれでも淡々と生きていく。

喪失を何かで埋めるということとは少し違う感覚。

忙しい日々の中でふと忘れそうになる人とのふれあいの機微や、日々を「暮らし」ていくということを感じさせてくれる作品。


ゆっくりとゆっくりとした快復の物語な気がした。